新保守主義を過激に推し進めようとするイギリスに対抗して社会政策的観点を意識的に強調してきたEUも、いわゆる「S対D」の対立が終わったいま、雇用のある程度の柔軟性を模索する傾向にある。
すなわち、配置転換やワーク・シェアリングを活用して企業内の雇用の流動性を確保する措置を、すでに長い経験の蓄積がある従業員代表制と絡めて進展させることがいくつかの報告書等で主張されている。
しかもそれらの主張においては、1つのモデルとして日本の長期雇用慣行が指摘されているのである。
このことは日本に対して注目すべき示唆を与えているといえる。
日本は今後、労使委員会制度などを通して使用者のカウンターパートとしての労働者代表制を十全に機能させるという課題に直面するが、企業内の雇用の流動性という慣行が基本的に維持されたうえでそれが実現するならば、EUのめざす方向とほとんどオーバーラップすることになるのである。
この意味でも、EUとの連携の構築は今後の日本にとって不可欠の課題となるはずである。
さて、人間労働は、必ずしも企業労働に集約されるわけではなく、それは経済的意味においてさえそうである。
自然への働きかけは共同性をともなうのが通常であり、それは原初から、互いの助けあいと向上とを基本的な価値観として内包せざるをえなかった。
資本主義の発展過程で、労働組合が発生し、共同で労働条件の向上をはかるシステムを国家に容認させるに至った背景には、この基本的な価値観の近代的具現という要素を見逃すことはできない。
しかし、日本の現実は、労働組合の存在までをも企業内化し、企業別労働組合の多くは、実際には使用者の労務管理の窓口としての役割を超えていない。
とはいえ、これを動かしがたい現実と考え、主体的な働き方の模索を放棄することは得策ではあるまい。
たとえばワーカーズ・コレクティブや労働者協同組合などの活動は、十分に、主体的働き方を実現する具体的モデルとなっている。
また、企業内で就労する場合でも、新しい働き方として提示される個別管理や能力主義、雇用形態の多様化などを、働かせる側のいうとおりに受け入れるだけが、働く者にとっての選択肢ではない。
ソーシャルな働き方と受け身の集団労働では、ソーシャルな働き方は、企業の集団労働とはどこが異なるのだろうか。
それは主体的な労働であり、それは連帯に裏うちされた労働である。
主体的労働とは、「自主的労働」との相違によって明確にすることができよう。
自主的労働は、使用者の労務指揮権を前提として、与えられた仕事を進んで行うことであり、むしろ従順な「働かせていただき方」の知恵と工夫を意味する。
主体的労働とは、仕事の種類、内容、果実に至るまでについて、労働者自身の意向を反映させることを意味するのであり、企業労働においては、端的に使用者の労働契約上の権限の制約と限定をともなってはじめて可能となる性質のものである。
したがって、これを実現させるためには、当然ながら働く者は働かせる者に対して連帯して交渉能力を高めざるをえない。
労働組合は、こうした文脈のなかで検討されるべき存在であろう。
日本の労働組合組織率は、1975年を境として一貫して低下し続け、1998年には22.4%という水準にまで落ち込んだ。
しかもこの数字はもともと比較的組織率の高い官公労組を含んでおり、農林業などを除いた民間の組織率はついに20%の大台を割り込んでいる。
近い将来にこの数字が著しい改善をみせるような見通しはまったくないのが現状である。
この状況をもたらした要因は複雑であるが、何よりも産業構造の変化にともなって第3次産業に従事する労働者の数が激増するとともに、これまで労働組合の主力であった製造業従事者の割合が縮小した点が大きい。
言い換えれば、とりわけサービス業の分野において組織化が進んでいないことが労働組合全体の縮小につながっているのである。
さらに、すでに雇用者の20%を超える水準に達しているパートタイム労働者や80万人を超えてなお増大し続ける派遣労働者、および女性や高齢者など、今後雇用社会の主軸になっていく層の組織化は遅々とした歩みにとどまっている。
新しい労働組合では、労働組合の役割はこのまま低下を続け、やがてはごく特殊な存在としてのみ存続することとなって、働く者の代表組織としての意義は終えることとなるのであろうか。
それとも、新しい時代に即した新たな役割を勝ち取り、再びその機能を増大させていくのであろうか。
おそらくその分岐点は、働く者がこれからの時代においてどのような代表組織を必要とするのか、そしてその必要性に現在の労働組合がどのように応えうるのか、また応えうるとしたらどのように変貌することによってであるのか、等が明らかにされることにあろう。
過去から未来へ働く者が連帯して、お互いにその利益を守り、生活を向上させていくための組織は、当然ながら労働組合には限られない。
歴史的には、労働組合は産業革命以降のイギリスを中心とする先進資本主義国家において発達した労働者の代表組織であり、たしかにその後の発展において資本主義国の労働者を組織する普遍的な存在としての地位を獲得してきたが、労働組合だけが常に労働者の利益を代表してきたわけではない。
Mなどの事業協同組合組織はもちろんのこと、生活協同組合などの消費者協同組合、企業のなかの互助会や地域の助組織、さらには政治党派や宗教団体なども、一定の機能を果たしてきた。
そのなかでとくに労働組合が労働者組織の代表的存在として位置づけられてきたのは、産業労働者が結束して、労働条件の向上という特定の目的のために活動するには、労働組合こそが、労働者側の交渉力を回復する最適のシステムであると認識されてきたためである。
逆に言えば、経済の構造が基本的に変貌をとげ、集団労働を前提とした製造業中心の就労システムそれ自体が大きく変わるならば、労働組合が労働者にとって必ずしも最良もしくは唯一の組織とならなくなるのは当然である。
今後とも、労働の主要な現場が企業であることに異論はあるまい。
とくに生産現場の熟練工・多能工は、同一企業内での雇用の定着に大きなメリットを有する。
したがって、これら労働者の利害を代表し、また連帯して労働条件の向上をめざすには、超企業的な労働組合の存在だけでは足らない。
また、ホワイトカラーであっても、改正労基法が新しい裁量労働制の対象としているような、本社機能部門の企画、立案、調査、分析に該当する業務に従事する労働者は、どうしても企業に固有の知識・技能を身につけ、これを向上させることで職業的な地歩を築いていくことが通常となろう。
したがってこのようなタイプの労働者についても、企業内において連帯と利益確保のための組織づくりが不可欠となる。
この場合、手がかりとなるのは現行法制度のなかで徐々にその機能を拡大しつつある労使委員会方式の応用である。
すでに述べたように、これは、もともと労働時間短縮を効率的に進めるために制定された時短促進法に最初に取り入れられた方式であり、事業所のなかの使用者側と労働者側からそれぞれ同数の委員を選出して労使委員会を構成し、そこでの「決議」を、これまでの労使協定に代えることができるというシステムである。
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